どうも皆様こんにちは。今月もやってまいりました、文芸誌を一年間読んでみるチャレンジです。
先月に折り返しを迎えたチャレンジも残すところ5ヶ月。今のところ脱落者なしで進んでいるチャレンジですが、果たしてこのまま完走できるのか!?
文芸誌に追われる者たちの足掻きをいざ、刮目せよ!
というチャレンジの詳細についてはこちら。
今からでも参加できますよ!
群像・Sさん
- 初っ端が柴崎友香さんの『帰れない探偵』。いつも楽しみに読んでいるけれど今回が最終回だった。書き出しが毎回、「これは、今から十年くらいあとの話。」と始まっているけれど、この仕掛けはまとめて読んだ時にどんな感じになるだろうかというのが気になる。単行本でも読みたい。
- 七月号の特集は「論の遠近法」。批評は苦手なので手に取らないまま来てしまい、ようやく読み始めた。
- 永井玲衣さん、三宅香帆さんなど人気な論客がたくさん
- 小川公代さん「ケアの現在地――『虎に翼』から『エゴイスト』まで」では「虎に翼」などリアルタイムな話も書かれていて面白い評論だった
- 小峰ひずみさん『議会戦術論――安倍晋三の答弁を論ず』は安倍元首相がどのように話術を展開していたかということが考察されていた。安倍さんはメディアに取り上げられることをすごく意識しながら論敵をいじったり、「笑い」を答弁に持ち込んでいた人で、そうなると批判される側もその目線を意識しなければならないから議会から離れてしまう……という話だった
- 島田雅彦さんが唐十郎に関して、小野正嗣さんがポール・オースターについて追悼文を寄せていた
- 安藤玲二さん、井戸川射子さんの連載も最終回
- 兼桝綾さん『産まれるまでは私の身体』は最近経験された出産について書魂婚心中かれていて、すごく身に迫る話だった。
- 新連載として小川哲さん『小説を探しにいく』。小説なのかエッセイなのかわからないやつ。酒井順子さん『習い事だけしていたい』。卓球、ヒップホップ、中国料理を習っているという話。面白いだけで読めるやつ。立川小春志さん『ストーリーワイズ』、はまだ未読。
- 群像の特集号は厚すぎて大変
ユリイカ/現代詩手帖・Jさん
- 今回は「幸田文――生誕120年」特集。名前と作品名ぐらいしか知らないのでまだ全然読めていない
- 『われ発見せり』というコーナーも短くて読みやすい。何も知らなくても読めるコーナーがありがたい。音楽家・美術家・DJの小松千倫さんという方が『音に留まれないこと』を書かれている。書き出しが面白い「夜は地球の陰だということを知る方法として原付に乗ることがある」。原付に乗っていたらTexas 3000というバンドのライブに巡り会ったという話
- 一般の方の投稿が掲載される「今月の作品」には、緒方未花里さんの「せいかつほごしんせいちゅう」という作品が載っていて面白かった。生活保護申請中の方が誰かに向かって話しているという設定だと思うけれど、「アスパラは買ってもいいんですかね」とか「エビピラフは文化的すぎるのでチャーハンにしましょう」とか。
- 最後が後略となっているのでもっと長い作品だと思うけれど、掲載部の終わり方も不思議で良かった
- 現代詩手帖は散文詩特集。粕谷栄市さんという散文詩作家が現代詩人賞を取ったということでの特集。
- 巻頭に載っている『一羽/一生』という二つで一つの作品は、渡り鳥や肉屋などいろんなものだった記憶があるという書き方(転生?)で、不思議だけど面白い。
- 90歳でこんな作品を作っているのだというのがすごい。古臭くも新しい方にも寄せていなくて、ずっと読める詩を書いているのがすごい
- 論考では散文詩にありがちな「散文詩と散文の違い」についていろんな人が書いている。なんとなく答えはあるのだろうけれど掴みきれない感じ
- 竹中優子さんの「すべてが消えてしまいそうな恐ろしさ」という書き方が良いなと思った
- 詩の面白さを提示するのは難しい。詩論を読んでいると、詩人の方々が色々な表現で「詩を読んだ時の感覚」を表現されているのが面白い
S-Fマガジン8月号・Lさん
- クリストファー・プリーストと山本弘(ゲームデザイナー)の追悼特集
- プリーストは『奇術師』がクリストファー・ノーランによって映画化されている
- 『われ、腸卜師』が掲載されている。現代に生きるめちゃくちゃ嫌な腸卜師がどこかの機関から送られてくる内臓を食べてパワーアップして魔と対決する…みたいな。魔と戦っていたつもりがどこかで自分が魔になっていたという展開。あまり後味は良くなかった。途中で出てくる時間遡行者との出会いで運命が狂っていった。
- 「地球へのSF」というアンソロジーが出版されたのでその特集が載っていた。執筆陣が今をときめくSF作家たちで豪華
- 一番楽しく読めたのは攻殻機動隊のイベントレポ。来年の春から世田谷文学館で原作者の展示があるらしい
- 春暮康一さん『一億年のテレスコープ』が出版に先立ち冒頭掲載されている。異なる星の人とのファーストコンタクト系。主人公の寿命中では実現不可とわかったのでバーチャルの身体に人格を移植して行って研究を続けるという展開。主人公の視点だけでなくコンタクトされる側の視点も書かれている。電子望遠鏡の技術的な話が難しいので苦戦。
- 芦沢央さんの新刊『魂婚心中』にさまざまな作家が解説を寄せている。「閻魔帳 SEO」と「魂婚心中」はS-Fマガジンに掲載されていたので復習がてら読めた。
- 新連載、秋山文野さん『宇宙開発 半歩先の未来』は24年1月20日の小型探査機の着陸についてのエッセイ
- 4月号「BLとSF」特集の監修者・水上文さんによる『BL的想像力をめぐって』はしっかりした評論。4月号の売りがけっこう良かったのかも?
- 松村由利子さん 『宇宙(そら)にうたえば)』 はSFっぽい短歌を紹介している。6月号から始まった連載。
- 吉上 亮さん『ヴェルト』が第二部の第一章。今後はフランス革命時代が舞台になっている
- 田丸雅智さん『未来図ショートショート』も先月からの新連載。SS3本立て。これも読みやすくて助かる連載
望星/文學界7月号・ぼく
- 望星は初めて買ったけれど、「積読特集」。島田潤一郎さんとか大石トロンボさんとか、気になる執筆陣
- 文學界は初っ端が向坂くじらさんの詩。石垣りんさんみも感じて好き
- 今月は読切三本から。
- 町田康さん『男花嫁』は極道っぽいけれど微妙に違うような組の抗争もの。経営しているのも賭場じゃなくて愉快になるようなことを言った人に「愉快札」を渡すというやりとりをする場所…みたいな? 江戸なのか昭和っぽいような雰囲気なのに令和で、組のボスがアルフォード乗ってたり
- 古川真人さん『風呂の順番』は成長した家族の語りだけで描かれる物語。実家のあった長崎の離島に帰省している一家が風呂の順番待ちをしながらずっと話している。「昔こんなことあったよね」みたいな会話から家族の姿がどんどん見えてくる面白い話。長崎方言の語感とかもすごくいいし、視点が移り変わる中で猫とか家とかの視点(心情?)が挟まれているのも不思議。吉川家サーガという連作っぽいので、今までの作品も読んでみたい。
- 山下紘加さん『可及的に、すみやかに』はひとり親で息子を育てる女性の物語。離婚して実家に戻っているけれど、親との折り合いが悪くて子どもの前でもバチバチに喧嘩してしまう。色々なストレスが重なってきてめちゃくちゃつらい
- 対談が二つ載っていて、北方謙三×松浦寿輝、小林エリカ×中脇初枝という対極的な(?)感じ
- 新連載で渡辺祐真さん『世界文学の大冒険』が始まっている。世界文学をいろいろ知りたいので楽しみ。初回は歴史学という学問が西洋中心からグローバルヒストリーの視点へと変化してきたことについて。
- リレーエッセイ『身体を記す』は上田岳弘さん。量子力学的身体論? 要するに書くことによって癒されているというような話だと思われ
- 江南亜美子さん『「わたし」はひとつのポータル』は頂き女子りりちゃんの話しから町田良平『生きる演技』につながっていく。
- 今回で綿谷りささん、金原ひとみさんの連作が最終回だったので、次回から何か始まるのか楽しみ。
おまけ・芥川賞を予想してみる!
いよいよ17日に芥川賞が発表されるということで、メンバーたちであらすじや感想を話し合いながら受賞作を予想してみました。(『いなくなくならなくならないで』は読めた人がいなかったため申し訳ないですが今回は保留)
尾崎世界観『転の声』
- 最近の芥川賞にあるようなエグみがある作品だった
- おそらく受賞した時の話題性が一番高い(そこが選考に関わるのかはともかく)
- 以前にも候補作入りしていた
朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』
- 哲学的な作品だと思った
- 医師ならではの視点の作品
松永K三蔵『バリ山行』
- とても読みやすい作品
- 冒険小説的なワクワク感もあった
- 会社の状況とか人間関係の悩みはすごく現代的だし、リアル
坂崎かおる『海岸通り』
- 映画みたいな作品
- 異文化との出会いがテーマになっている
- 女性、外国人、非正規労働といったマイノリティの問題を取り上げながら、重いわけではなくて爽やかな感じ
ゆるっと話あったところ、『転の声』が有力なのではないか? という話に。やはり『ハンチバック』のインパクトが大きくて、そのような個性・違和感を持つ作品が強いのではないかというのが理由でした。さてさて、実際はどうなることでしょう…?
次回のお知らせ
次回文チャレ報告会は8/28(水)の19時より! 場所は今回と同じくニネンノハコにて開催です。
間がけっこう開くので、忘れないようにメモメモしながら読んでいきましょう。