なぜか回を重ねるごとに長くなっている「文芸誌を一年間読んでみるチャレンジ」。初回のさっぱりした感じが懐かしくもあり、寂しくもあるのは、この企画も残すところ2回となってしまったからでしょうか?
読めるときもすこぶる読めないときも、一緒に走り抜けてきた文チャレ企画。ぜひその輝かしいゴールを皆で一緒に迎えようじゃありませんか!
ここから参加して2ヶ月間を共に走ってくれる方もカムカムウェルカム。文芸誌を読んで「#文チャレ」タグをつけて感想を投稿するだけで何となくぼんやり参加できる、史上最もゆるい類の読書会です。
そんなこんなで、今月の文チャレの様子をぜひご笑覧くださいませ!
文學界/すばる9月号(ちょっと)/ユリイカ10月号(ぺらっと)・吾人
- ユリイカの「いよわ」特集号はペラペラっと見たぐらいだけれど、いよわさんは「ゲームソフトから作曲を始めた」というのが書いてあって、世代的にバンブラかな〜と思った。自分もバンブラ極めてたらボカロPになれたのかなぁ……
- 横川理彦『DTM観点から「いよわ」を分析する』はおそらく全てのいよわ曲に一言コメント書いてて気合い入ってた。「1000年生きてる」の間奏がムソルグスキーだって言われて初めて気づいた
- 表紙も本人が書いててユリイカらしからぬ可愛らしさ。ボカロPほんと万能な人多い!
- すばるは川野芽生『ゴーストとお茶を』を読んだ。19世紀イギリスを舞台にした貴族物語。ちょっとファンタジーも。こういうラストには弱いのでうるっときてしまいました
- 文學界。まずは新連載の井戸川射子『舞う砂も道の実り』。井戸川さんは文体が独特なのでちょっと苦戦した。具体的にいうと、めちゃくちゃ移人称で段落の中で次々と視点人物が変わっていくのと、助詞とかを独特の省き方をしている。小説というより歌詞とかラップみたいな雰囲気の文体。
- 読み切りが二本載っている。仙田学『また次の夜に』はテーマ的に結構重いのだけれど、読み応えがあった。娘を無くしアル中になった女性が、自助グループでの出会いによって回復したりゆり戻しがあったり、少しずつ進んでいく話
- 永方佑樹『字滑り』はすっごい不思議な話。局所的に起きる字滑り現象(かな・カナ・漢字などの括りでそれぞれの音声しか読んだり書いたりできなくなったりする不思議現象)に興味をもつ3人の人物たちが、「字滑り体験型宿泊施設」なる場所へ招待されて不思議な目に遭うストーリー。説明できないので読んでほしい
- 円城塔×福永信×澤西祐典の鼎談は、普段あまり土地固有のものを書かない三人が個別の土地をテーマに読んだり書いたりしてみるシリーズ第7弾(らしい)。今回は琵琶湖ということで、青空文庫で「琵琶湖」と検索して出てきた小説を読んだ感想がずらっと書かれていて面白い
- その後に、琵琶湖をテーマに書いた作品が掲載されている(一度書籍に載った作品であれば青空文庫に収録できるらしい)。円城塔『旅する琵琶湖』は「伊賀で生まれた。」から始まるのだけれど、まさかの文字通り「琵琶湖」が旅する話でぶっ飛んでた。澤西祐典『虹のこ』は琵琶湖に虹がかかったときだけ現れる水上蚤の市の話。ほっこり。福永信『土俵の中の日本』は実在する人物も交えつつ国際情勢を批判した作品。なぜか琵琶湖がバイカル湖に沈んだりしていた
- 市川沙央『異世界転生は殖民論の夢をみる——『大転生時代』論』は痛烈な異世界転生モノ批判。知識や技術を持った現代人が文明の遅れた異世界に行って無双する構図って、敗戦後の日本の状況の裏返しだよね、という話から、一方の『大転生時代』は……という展開の仕方。ここは書きたかったんだろうなという一文も。ラノベから純文学へ移動した作家だからこそ書ける批評
- 「身体を記す」は大田ステファニー歓人。大田さんって砕けた口調だけれどすっごい真面目だなあと思った。表現する人が今向き合わなければならない物事に真正面から向き合っている
- 今月の特集は「インターネットとアーカイブ」。その初っ端が宮内悠介の読み切り小説『暗号の子』。インターネット黎明期と現代。完全自由主義と共同体主義。家族と病。さまざまな要因で対立していた父と娘が和解へと至るアツい話。テクノロジーの難しさと可能性を感じる
- 「アンケート あの人のブックマーク」としていろんな作家のおすすめウェブサイトが掲載されていた。大きめの図版も入った贅沢なレイアウト
- 頭木弘樹『痛いところから見えるもの』今回は腸閉塞と歯肉炎。読んでて痛い
- 藤原麻里菜『余計なことで忙しい』は最終回。引越しでいろんなものをめっちゃ捨てまくったけど拾ってきた石は捨てられない、というのが何となくわかるような
- 円城塔『コード・ブッダ 機械仏教史縁起』の書評が載っているけれど、書かれているあらすじを読んでも内容が全く想像できず面白い
群像10月号・Sさん
- 表紙が黄色と白と黒。珍しくモノクロイラストで、シバタリョウさんという方の絵
- 特集が「おいしい文学。」お正月ぐらいに載ってた「休むヒント。」は書籍化したので、これもたぶん書籍化するのだと思います
- 「おいしそうな文学。」というテーマで短いエッセイがたくさん載っていて読みやすかった。時期的にお盆進行の中で作られたのかな
- 武田百合子の『富士日記』について三人ぐらいが書いていて、江國香織の『きらきらひかる』について書いている人が二人いた。僕もすごく好きだったんだけれど、ある時友達が「これはつまらん話だ」と言っててちょっと引いちゃったんですよね。でも二人が面白いって言ってることはもう面白い話!
- 宮内悠介、エッセイも短編も書いててめっちゃ仕事してる
- 工藤あゆみが載ってる号は読みやすい
- 特集の中で有緒連載の新連載 「ロッコク・キッチン~浜通りでメシを食う~」が始まった。東日本大震災の被害を受けた国道6号線上近辺で食べることについてのエッセイ。ドキュメンタリーの監督さんと一緒に取材している。一回目はインドから来た人のところに行っている。いい話でした
- もう一つの特集が、ドライブ・マイカーの濱口竜介監督。最新作の『悪は存在しない』を観ていないので分からないけれど、大体どんな映画かは想像できました
- 面白いなと思ったのが、書き出しが被ってる人がいたこと。こんなことってあるんだ!と 「濱口竜介監督の最新の長編劇映画作品である『悪は存在しない』は長野県の水引町という架空の集落を舞台にしている」「濱口竜介監督の最新作『悪は存在しない』は長野県の架空の街、水引町を舞台とした作品である」
- 濱口さんがビクトル・エリセ『ミツバチのささやき』について行った講義が書き起こされている。ミツバチのささやきは去年リバイバルで上映してて観たいなあと思ってたところが見過ごしちゃった。観たいと思った映画は観に行かなきゃいけないんだな、と強く思いました
- 富岡幸一郎「保守のコスモロジー」は単発かと思っていたら連載だったみたい。西部邁のことが主に語られていて、気になっていた方なので面白く読みました
- 朝井リョウ×高瀬隼子 「小説にひそむ、新しい問い」。朝井さんは群像初登場らしい。ラジオ番組でよく喋りを聞いているので、完全にあの声で文字が再生されて読んでて楽しかった。お互いどういうふうに書いていますかという話も出てきて、朝井さんはロジカルに考えて考えて書いているというのが分かった
- 朝井さんは書き始めた時期すごく悩みながら書いていて、「プロになったらきっと書けるようになるだろう」と思っていたけれど、いまだに変わらずずっと悩んでいると。作家ってそういうものなんだなと思いましたとさ。
- 穂村弘×永井玲衣 「この世界のポテンシャル」永井さんは穂村さんに憧れてて、穂村さんは永井さんのことベタ褒めしている、という感じの対談です
- 阿部和重「Wet Affairs Leaking」は遅々として進まずという感じの連載
- 町田康「口訳 太平記」は、原作を読んだことがないので今どのあたりなのか分からずに読んでいる。太平記読んどきゃよかったなと思いました
- 保坂和志「鉄の胡蝶は歳月は夢は記憶に彫るか」は今回は個人的にはあまり面白くなかったです
- 全卓樹「私たちの世界の数理」は前回の話をちょっと広げた感じ。言われてみればそうだけど、はて何を言っているのか……?
- 三宅香帆「夫婦はどこへ?」、今回は坂元裕二のドラマ『Mother』と『羊をめぐる冒険』を対比して、親子と夫婦を両立して物語を描くのは難しいのか?ということを引き続き書いている。今回の終わりは「日本には夫婦で子育てする物語は存在しないのか? 決してそんなことはない。次回見てみよう」と書いてあるので、次回からは夫婦で子育てやってこう、という話が出てくるんじゃないかな
- 小川哲「小説を探しに行く」も面白かった。小川さん自身の書いた短い小説のサンプルが2つ載ってて、あとの方が読みやすくなかったですか?と。 情報が開示していく順番と、作中人物が感じていくことの順番・情報差を揃えてくことが、「文体」を整えることなのではないかという話。特に小川さんはエンタメでデビューされているので、そういうことを意識されていたと
- 間宮改衣がエッセイを書いています。ファンの方は読んだ方がいいよ! 川端康成が睡眠薬でしくじってしまった話を読んで共感するという話ですね
- 鹿島茂「第ゼロ次大戦」 歴史に全然詳しくないので……キツイです
- 宮内悠介「デビュー前の日記たち」……群像の中に宮内さんの文章が3つある!本当にすごい。 今回はヤバい日記が出てきてる。当時別れた彼女に対しての共通認識の中で書いてる文章みたいな……言葉でうまく説明できないので、いつか駅前とかで朗読しようと思います
- 吉岡乾「ゲは言語学のゲ」今回は割と喧嘩を売っててすごく良かった。言語学者に対して論拠不明の自説をぶつけてくる人について
- 大澤真幸「〈世界史〉の哲学」は珍しく長期連載で159回目。ヘミングウェイ、フィッツジェラルドと書いてきて今はフォークナーのことを書いている。この辺はなんとなく知っているので面白く読めた。黒人がなぜアメリカで差別されているのか、という現代の問題を文学と繋げて書いていた
- フォークナーは「八月の光」を読んでは挫折しているけれど、こうやって取り上げられてるのを読むと面白い。いつか読めるといいなあ
- ゆっきゅんによる『マリリン・トールド・ミー』の書評 文章がすごく良くて読みたくなった。
S-Fマガジン(前回の続き)・Lさん
- 櫻木みわ『心象衣裳』は服作りのコンテストで切磋琢磨する女の子たちの話。着用した人間の脳神経と連動し、その感情や外的反応を表現する技術「心象ファッション」というテクノロジー。二人の作り手が競い合う、爽やかな青春小説感がある作品だった
- 池澤春菜『秘臓』は体にまとい血管を覆い隠して美しさを変えることのできる極薄の膜状デバイスが浸透した社会が舞台。のめり込む主婦がだんだんおかしくなっていく様子は、SNSで見る整形にいれあげる人っぽい。コンプレックスを隠すって大変だなぁと思いました。最後はちょっとホラー
- ファッション&美容SF作品ガイドはほぼほぼ知らない作品ばかりだったけれど、有名どころではブラッドベリの「刺青の男」とか。池澤春菜の「あるいは脂肪でいっぱいの宇宙」。今日出てきた人では藤野可織「ドレス」、川野芽生「かわいいピンクの竜になる」なども。映画では「哀れなるものたち」とか
- 新連載は邵丹「もう一つの日本文学 SF翻訳家インタビュー」第一回はSF黎明期から活躍した伊藤典夫について。
- 書評で気になったもの。マット・ラフ『魂に秩序を』。
次回の文チャレについて
いよいよ残すところ2回となってしまった文チャレ報告会。
メンバーもそれぞれ活動が忙しい11月ですが、最終週に予定を合わせて開催します!