別に書くほどじゃないけど…

ツイート以上、フリペ未満の雑文帖

260311鑑賞記「ライシテからみるフランス美術」展

「ライシテからみるフランス美術」展。以前Xで流れてきて、そんな話題になる展示が近くでやってるんなら観てみようか〜という軽い気持ちで行ったのだった。


www.bunka.pref.mie.lg.jp

まずライシテって普通に人とか技法とかかと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
いわば政教分離のことで、この展示ではフランス革命を端に発生した宗教側と革新側といった対立の時代の美術を取り上げるということ。めっちゃ世界史だ…。

いつも通り、個人的に目が止まった作品についてざっくばらんと書いていく感じで。



  • 初っ端から「1790年2月16日の修道会の廃止に関する国民会議の政令」(作者不詳)。貞淑という規範から放たれ、左の方で馬に乗って駆け落ち(?)してゆく男と修道女、そしてそんな二人を引き留めようとする別の修道女…。なんとなくコミカル。

専修大学図書館蔵

  • アッピアーニ「ルーヴル宮殿でアテナ像の前に立つナポレオン」はひときわ目を引く大きな作品。暗い画面の中で白い服のナポレオンの腹部が目立つ。この衣装のぴちぴち感。なんともいえない中年的な小太りを感じるが、これがかっこいいの時代だったのだろうか。

www.fujibi.or.jp

  • 一方でその横にあるオーラス・ヴェルネの「墓からよみがえるナポレオン」はやたらと神々しい演出がされている。しかし19世紀美術なので絶妙なリアリティがあり、シュールでもある。

www.fujibi.or.jp


説明を読んでいるとアンシャンレジームとかヴァンダリズムとかどこかで聞いたワードが次々出てくる。やはり世界史をやらねば…。

  • 王政復活後の大聖堂保存プロジェクトで描かれたエッチングの微細さがやばい。目が痛くなるほどの細かさ。リトグラフだから石版に掘って刷るのだろうけど、ここまで細かいタッチや陰影を表現できるものなのか。

hanga-museum.jp
町田市立国際版画美術館コレクションより

  • そしてようやく聞いたことのある画家が。ギュスターヴ・モロー「ピエタ」。ここまでの宗教画は風刺的だったが、この作品は完全に純粋な宗教画。十字架から降ろされたイエスを抱き抱える聖母マリア。二人の頭が金色にぽわっと発光している。イエス処刑された時点でマリアってまだ生きてたんだな、と知る。

gifu-art.info

  • アリ・シェフェール「戦いの中、聖母の加護を願うギリシャの乙女たち」はギリシャ独立戦争の一場面。中心の女性の黄色い服に、蛍光色的なオレンジでラインが入っているのが目を引く。右側の背を向けた女性の服の色と同じだろうか。よく見るとイコンの中にも点々とこの色が。そして奥の女性が驚いたように振り向いた先にいるディメンダー的な存在が気になる…。

collection.nmwa.go.jp


続いて田園風景セクション。主題が宗教テーマから庶民の暮らしへ〜みたいな流れのなかの美術ということか。

  • ドラクロワ「聖母の教育」はおとぎ話的な雰囲気ある画面。マリアが母アンナに旧約聖書を読んでもらっている側に毛並み良いわんこ。全体的に重めの緑と青で包まれているが、森にさしている柔らかな光がすごく優しげ。午後の光だろうか。マリアの右奥側に描かれている空間の木漏れ日(とハシゴ)が奥行き感。足元のバラも可愛らしい。ドラクロワ、良い。

www.nmwa.go.jp

  • ミレー「無現在の聖母」。ミレーの種まき以外の作品、初めてちゃんと見たかも。顔の描き方というか比率が独特。天使リングがLEDみたいな点滅で描かれているのも不思議だ。説明によると注文した教皇からは不評だったようだが…(近代的すぎる?)

www.art-museum.pref.yamanashi.jp

そしてそんなミレーといえば、ということで「種をまく人」のレプリカも展示されている。岩波文庫だ。どのぐらい忠実に再現されているのかは分からないが、暗い画面のなかから農民が浮き出てくる色使いと構図は迫力ある。

www.art-museum.pref.yamanashi.jp

www.iwanami.co.jp


第二章は普仏戦争期の美術。序盤には墓とか荒地とか、戦争敗北後の殺伐とした風景画が並ぶ。

  • ヴェルニエ「コントラスト——戦前のパリ、包囲戦中のパリ」は分かりやすい対比。優雅に暮らす婦人とラピュタとかに出てきそうな剣を持ちキリッとした女性が並べられている。

ティエールめちゃくちゃ嫌われてるな、というのがなんとなくわかる作品たちが多い。

  • ギュスターヴ・モロー「聖セバスティアヌスと天使」は30センチぐらいの小さな油彩画だが描き込みが細かくてじっくり眺める。セバスティアヌスがめちゃくちゃ美形に描かれてるな。どことなく耽美な雰囲気。背景の木?か雲?かが天使の羽の部分を避けて描かれていたり、股間が破れた衣服で隠されていたりと細かさが面白い。あと二人の上で輝く星。ここに視線が惹きつけられてそこから身体に沿って下の方へと降りていく流れ。

www.gifu-art.info

  • ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ「聖ジュヌヴィエーヴの幼少期」はメインビジュアルにも選ばれている作品。額がゴツい。全体的にグレーがかった柔らかいパステル調の色彩。横長の画面に50人ほどの村人たちが描かれていて、中心には聖ゲルマヌスに撫でられる聖ジュヌヴィエーヴ。村人たちはそれぞれ何か組み立てたり子をあやしたりしつつも中心の二人に目線を送っている感じが、めっちゃ大注目!とかじゃなくて日常的な中での「おーー」って感じで良い。個人的には中心からやや右の女性に抱っこされながら聖ジュヌヴィエーヴの方にキャッキャしている赤ん坊と、その横で母親らしき人に寄り添われながらキュッと祈りを捧げている水色の服の少女が可愛らしくて好き。あと左右の奥の方にいて、近くまでは来ないけどなんとなく見てる人たちとか。

jmapps.ne.jp

  • 続いて彫刻コーナー。彫刻といえばロダン、ということでいくつか作品がある。「カレーの市民」(第2試作)は集まってカレーパーティをしている人々ではなく、14世紀の百年戦争でイギリスから街を守った市民たちらしい。群像の彫刻ってあまり見たことなく新鮮。そしてみんな前を向いてキリッとしてとかじゃなくて、それぞれにそれぞれの表情をしつつも全体で個性的な勇者パーティみたいなまとまりがある。一番手前の首に縄みたいなのを巻いたヒゲおじがリーダーとして、その横に「やんのか?」みたいなのが肉体派、その横でなんかプレートみたいなの(カレー?)を持って俯いているのが頭脳派。リーダーの後ろで頭を抱えて絶望してる人と、そいつに対して「んなこと言ってる場合じゃねえだろ」みたいな顔してるのは凸凹コンビ感がある。そしてカレー持ちの後ろで華麗に後ろを振り向いているのは完全にナルシストポジションだ。キャラ立ってるなぁ。

www.polamuseum.or.jp


続いて「東方と他者」。オリエンタリズム的な作品たち。

  • オリヴィエ・メルソン「エジプト逃避途上の休息」は余白を大胆に使った作品。横長の画面の上側3分の2が青みがかったグレーの空で、広遠で寂寥とした砂漠の静けさを感じさせる。画面下の地面右には草を喰むラクダ。左にはスフィンクスの腕の中で眠るマリアとイエスが描かれている。静謐な画面の中で目を引くのが、地面で焚かれた火から細くたちのぼる煙と、マリアの腕の中で輝くイエス。そして天井にチラチラと光る小さな星たち。この雰囲気がとても良い。スフィンクスやラクダの陰影から、手前右の空ぐらいに月が出ているのだろう。アラビアンだなぁ。イエスの輝きがピッカピカ!って感じじゃなく、間接照明みたいな柔らかい暖色なのも落ち着きがある。

jmapps.ne.jp

  • ビゴー「《熱海の海岸》あるいは《熱海にて、日本の漁師たち》」は明治初期に日本に住んだビゴーの作品。丁髷もいればヘルメット的なものを被った男もいて、時代の過渡期なんだなというのがわかる。あとわんこかわいい。

u-moa.jp

  • デヴァリエール「キリストとマドレーヌ」は今展示で最も大きそうな作品。マグダラのマリアを抱きしめるイエスがめちゃくちゃ狭い神殿みたいな空間の中に押し込めて描かれている。どちらがイエスでどちらがマドレーヌなのか分からないな。顔の部分もこれはどうなっているんだ? 柱よりも太く筋骨隆々とした腕はさすがにイエス?
  • ルオー「道化師」。「どこか沈んだ様子を見せながらも」と書かれているが、不適な笑みを浮かべているようにも見える。
  • モーリス・ドニ「聖母月」。これもパステル調で柔らかい色彩。目の描き方が可愛らしくて良い。


  • エティエンヌ・ディネ「モスクからの帰り」は夜にモスクから出てくる女性たちを描く大型の作品。月光に照らされた行列をやや上からの視点で描いている。色使いがとても良い。ヒジャブ自体の模様だろうか、カラフルな点々が散りばめられた衣装やモスクの壁の塗りなど、複雑で美しい。

collection.nmwa.go.jp

  • フランドラン「聖母によせる頌歌」は構図が大胆。左側のマリアとイエス、右側の天使たちの真ん中には背の高い草花がどーんと描かれている。何か隠れているのでは…と探したくなる。


第四章「もうひとつの聖性——ライシテの時代の美術」にはいきなりモネとかピカソとか有名どころが並ぶのだが、著名な作品はさすがに呼べないのか地味めで、これ一点だけで時代性との関係を読み取れというのは割と無茶では。なので単品として強い作品に目がいく。

  • シャガール「静物」はキュビズムのカクカクさと赤青緑の鮮烈さが良い。テーブルクロスと食器のカクッとした線と、ガラスの透け感や塗りのグラデーションの柔らかさが美だ。
  • デュフィ「《パリから海へと流れるセーヌ川》下絵」。カラフルな色を大胆に使った賑やかさが楽しい。下絵だし余計にごっちゃごちゃしてるんだけど、塗りの柔らかさが全体を包み込んでいる。
  • 同じくデュフィ「電気の精」の縮刷版。これがメインビジュアルでも良かったのでは、というぐらいに大作だ。色彩豊かな画面の上側には人々の営みが、下にはズラーっと並んだ科学者たちが描かれている。名前も添えてあるが、分かるのがアルキメデスとガリレオとダヴィンチとニュートンとベルぐらいしかいない…。

ざっとした鳥の塗り方とか、雷様みたいなおじさんとか、飛び出してくるラーメンみたいなやつとか、気になるところが色々。

youtu.be


総括

この展示の評価が高いところは構成と国内にある作品だけで構成されているところらしいけれど、そこを楽しめる前提としての歴史・美術史・キリスト教史の知識が割と要求されるのだろうな〜と思った。「二つのフランス」というのがキーワードになっていて、それは大まかに言うと「宗教」派と「合理」派みたいな対立なのだけれど、そこに「カトリック/反カトリック」、「ユダヤ/反ユダヤ」みたいな様々な階層がありややこしい。
そもそもフランスの歴史が王政と帝政と共和制を行ったり来たりしていて、「この作品は第何次何制の何〜〜??」みたいにこんがらがってしまった。

先に読んでから行けばよかったかもしれない。(これを読む前に世界史教科書とかの知識が必要そうだけど)

ライシテという歴史が軸の展示だから仕方ないのかもしれないが、キャプションにもう少し作品自体の説明が欲しかった。あと宇都宮美術館はビゴー以外の収蔵品のページも作ってください。