別に書くほどじゃないけど…

ツイート以上、フリペ未満の雑文帖

260527鑑賞記「榊莫山展」

ちょうど先日『書百話』を読み終えてめちゃくちゃ良かったので、莫山展を見てきた。
撮影可能だったので写真たくさんあります。自館コレクションでやれる強み。



第一室は『書百話』にもエピソードが出てきた「蟹」(人皆直行、我独横行)から。
中学時代の作品から、勢いのすごい大型の屏風作品、そして莫山先生のライフワーク的な「土」まで勢揃い。
中学の作品からして素人目にはめちゃくちゃ完成されてるように見えるのだが、やはり基礎が完璧だからこそ「修羅羅漢」みたいな度肝を抜くような書が書けるのだろうなぁと思う。


「山河茫々」。


墨のハネが良い。まさに「山」って感じ。


「一木」。


ちょっと木が生えてるように見えません?
何個か書いて一番良いものを選ぶのだろうか、それとも一発書きなのだろうか。


明治の金屏風に芭蕉に関する散文を綴った「芭蕉の山河(其二)は、かくっとした可愛らしい文字と「画をひきしめ」るために配置された〈笠と杖〉のバランスがとても良く、やはりデザイン的なセンスがとても良いのだろうなと思った。

また般若心経を円の中に収めた「円想般若心経」の解説パネルにはお子さんを亡くされたことが書かれており、

戦争にかりだされた時点で死を覚悟したわたしが生きのこっていて、平和になってから生まれた子供が死んでゆく……。
(出典:『榊莫山自選作品集』世界文化社、1995)

という言葉は印象的だった。
円相の輪が「莫」の印で囲まれているのは遊び心がある。

「土」はもう、すごい。特に一番太くて上下の線がくっついている作品の、重たくも軽やかな感じ。墨の流れがもう地層みたい。英訳が「Earth」なのも納得。


次の部屋は「女」から。解説では草書体の「め」と書かれているが、なにかすごく包み込むイメージだなと思う。キャベツみたい。

一文字シリーズが終わるといよいよ詩書画。淡い水彩のような作品もあれば、「大和八景」シリーズは油彩のような重みがある。

特に「吉野ノ清流」は山々の奥行きと、河岸の葦原、川面の光の表現がすごい。画家としても一流なのだなと思う。
添えられた書ものびのびとしている。崩しているものの不思議と読みやすい。
大和八景では他に「宇陀野ノ丘」も良い。薄暮のぼんやりとした空の中に並び立つ木々のシルエット。毛筆だからこそという感じがする。


東ノ野ニ炎(カギロヒ)ノ立ツ見エテ 獲物枕ニ雑木ノ丘デイマハ昔ノ夢ハ眠ル

この丘自体を擬人化しているような詩かもしれない。そう見ると寝転んだ人に見えてくるな。
ちなみにこの作品はポストカードが売っていたものの、印刷が汚くて買わなかった。なんかどんよりしていた。たぶん昔に作ってそのままなんだろうけれど、せっかく企画展するなら作り直して欲しい。


展示解説を読んでいると、こんな文章が。「そのような自然とともにある暮らしは、画嚢を肥やすこととなりました」。画嚢を肥やす、そんな慣用句は初めて聞いた。

続いて「伊賀八景」。せっかくなのでそれぞれについて、書いてみる。

城ノ石垣」。夕映の伊賀上野城のお堀を描く。「今アル城ハナンノ昭和ノ城デアル」なんて書きつつも、「淡イ光デ石垣ガナントナク悲シゲナノガ美シイ」。
石垣がのっぺりと塗られつつも、角のあたりだけ少しディテールが出ていて不思議な雰囲気だ。

湯屋谷ノ寺」は寺へと登る石段を画面の真ん中に。グレーに挟まれた草地の緑が良い。「里ノ名モ寺ノ名モ、コヨナク昔ヲシノバセル」。

赤目ノ滝」は伊賀名張の名勝ということで文字もびっしりと書かれている。「數拾ノ瀧ノ名ハトテモヨイ」「瀧ノ音カラ佛ガ浮カビ、瀑布ノ白サニ手ヲ合ワセタクナル」。
その白さの表現が良い。これはどんな絵の具だろうか。水面に映り込む滝の反射は洋画的な表現かもしれない。

里カラ里ヘ」。今でも近鉄大阪線で名張あたりをゆくとこういう原の風景は見ることができる。白で描かれた草が寂しくも楽しい。
「四方山ニ囲マレタ伊賀ノ國。里カラ里ヘト水ガ流レル。」右から左へと一行で、画面下に置かれた文章が伸びやかだ。

青山高原ノ風」。もちろん風車なんかは描かれていない。見渡す限りの田園。初夏の緑。
「青山高原カラ風ガ立チ。ユレテ流レテ伊賀一國ヲ青ク染メル。」

芭蕉故郷塚」もびっしりと書かれた文字に左右を囲まれている。芭蕉臨終と塚の成り立ちが書かれている。「芭蕉ノ山河ハ夢ミル山河。ソシテ幻ノ山河デアッタ。」
紫に染まった空の下に描かれるお堂は、不穏というより夢の光景を思わせる。線画が優しく、御伽話っぽいからかもしれない。
参道脇に点々と描かれた花?が紫陽花っぽい。

赤門(崇廣堂)」。門の光の当たり具合で晴れた日の朝を感じさせるのだから上手い。藩校の門らしい。そんな場所があることを初めて知った。

霊山ノ雪」。深山という感じで、水墨画を感じる。手前に三本だけ描かれた木も。

以上八点。


晩年の作品。「麦ノ畑ヲ」もまた大胆な。しかしこの優しいタッチが癒しだなあ。

そして「寒山拾得」。この可愛らしい顔。もたれかかっているパターンのもかわいい。屏風サイズのものはインパクトがあるが、圧迫感はない。

野菜シリーズはまさに書画。若冲なんかを思わせる。「玉ネギ」や「大根」は句点を緑に塗っているのがかわいい。
こういう、極限まで脱力した作品は見ていて疲れないのが良い。上手い下手とか価値の有無とかの評価軸から離れたところで表現できるってすごいことだと思う。


字が下手すぎるので、文字を見ることにも対して関心を持ってこなかった人生だった。なので書の良し悪しなんかは判断できないのだが、バクザン先生は言葉がとても良く、キャプションありきで楽しめる展示なのが良かった。