別に書くほどじゃないけど…

ツイート以上、フリペ未満の雑文帖

文芸誌を一年間読んでみるチャレンジ 12月の定例報告会

参加者がそれぞれに文芸誌を選んで一年間読み続けてみるチャレンジ、12月をもってついに最終回です。
終わって気が抜けて投稿をすっかり忘れていたりしましたが、なんとか年内には間に合った。

先月の報告会報告
himasogai.hateblo.jp


それでは、めくるめく文芸誌の旅のクライマックスへ、いざ!

GOAT/MONKEY・主催者

  • 文チャレ最終回を目前にして新たな文芸誌が爆誕してしまったので冒頭を読みました
  • まずこの厚さで510円はおかしい。小学館さん、どういうトリック……?
  • 正式名称は“Greatest of All Time”ということで、割と強気
  • でも冒頭から西加奈子市川沙央小川哲尾崎世界観……という並びはやっぱりすげー
  • 「紙」が一つのコンセプトらしく、いろいろな紙を使い分けたり、社内でリサイクルした紙を使ってたり
  • 西加奈子『ディヴァイン』は、瞑想をして強くなり、抑圧から抜け出すことができた女性が、なぜか再び別の搾取の中に陥ってしまう話。二人称で書かれているが故にコミカルなところもあって面白い
  • 市川沙央『音の心中』は心音をめぐって展開していく物語。心があるとかないとかってなんだろな〜と考える
  • 小川哲『嘔吐』は女性若手作家とその男性ファンの間のネット書き込みを通して真相がぐるぐる回る物語。どっちが正解、と簡単に割り切れないところが上手いなあ
  • 人数が多いぶん一作づつは短くて読みやすい……かと思ったら途中に5段組があって心折れそう
  • 柴田元幸責任編集のMONKEYは最近存在をちゃんと認識して、海外文学をもっと読みたいなと思っていたので手に取りました。特集は「ここにもっといいものがある。柴田元幸岸本佐知子 短編競訳」ということで、お二人がいろいろな作家の短編をたくさん訳されている
  • スーヴァンカム・タマヴォンサ『ランディ・トラヴィス』はカナダのラオス系移民の娘から見た母と家族の話。母はカナダに来てからランディ・トラヴィスというアーティストにどハマりし、色々疎かになってしまうレベル。それで父はどうするのかといえば、自分もランディ的なファッションを取り入れて振り向いてもらおうとする、という。終わり方がとても好き
  • エリック・マコーマック『家族の伝統』は淡々としてるけどサスペンスな作品。禁断の恋とか、完全犯罪とか。サンスペンスだけど淡々としてるのが面白い
お菓子をつまみつつ、出てきたものについて時々調べつつ。

S-Fマガジン10月号・Lさん

  • 何も読んでないとは言いつつ、ちょっとは読んだ
  • SF的短歌をめぐる連載、松村由利子『宇宙にうたえば』。今回は人類史的なところから引っ張ってきている。ネアンデルタールとか、猿の惑星を踏まえた歌とか
  • 投書欄では今年亡くなった鳥山明の思い出を話す人とか、NewJeansのことが書いてったり、そんなんでもいいんだと思った
  • 青春ジュブナイルが好きで、NewJeansの成長を重ねてしまうとか、そんな感じらしい
  • かと思えば投書欄らしく、今までの特集に対して言及していたりとかも二、三名
  • 宮崎夏次系の短編漫画『銀河鉄道の翌夜』はジョバンニとカンパネルラごっこをしている女子高生二人が、転生先で会うね……っていう話
  • 菅浩江『 夜はなべて美しい』状況に合わせた音楽を自動で再生して感情を整えるデバイス、みたいなのを使っている女の子が、かつて好きだった男の子に会うけれど、その人は世界が全部美しく見えちゃう呪いにかかっていた。全部が美しく見えちゃうから自分の容姿とかどうでも良くなってて、その子は燻ってたんだけれど、アドバイスとか交流して段々仲良くなっていくみたいな話でした
  • ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン『美徳なき美』は、ファッションモデルとして14歳以下の子どもの腕を移植しなければならないブランドで働く女の子の反抗の話。ペロー童話の「宝石姫」という童話をモチーフにしているらしい。この中でちょっと怖いのが、切り落とした腕だから指先とかが壊死してくる。でもそれがファッションとしてネイル化されて流行る、みたいな。ここまでではないだろうけれど、現実にもありそう
  • 『着回しDiary振り返り座談会』はCLASSYの着回しシリーズのインタビュー。企画は全部編集部の中から出てくるらしい。普通の着回しはいいやってなったんでしょうね。遡って読みたいのは「“宇都宮餃子の名店“の看板娘」。12、3年前に始まったというのがすごい
  • 『BL的想像力をめぐって』は難しかった。母という存在はBL作品でどういう立ち位置なのかという話をしていた
  • 12月号は年内に読めるかどうか……
  • ラテンアメリカSF特集だけれど、言っちゃえば「SF」って括ればSFになっちゃう感じ。『百年の孤独』も入ってる
厚すぎて目的のページがなかなか見つからないの図

現代詩手帖/ユリイカ ・Jさん

  • 現代詩手帖は「現代詩年鑑2024」。詩人の住所や電話番号などが載っていてびっくりした。住所や連絡先変わってたらご連絡くださいと書いてある。同窓会名簿じゃないんだから
  • 詩書・詩誌の一覧なども載っている
  • 「今年度の収穫」というアンケートがあって、今年度印象に残った詩集5冊、詩5篇、その他ジャンル関係なしに関心を持った物などを聞いている。アサノタカオさんも載っている
  • 詩は2024年の代表詩選ということで、一度掲載されたものから選ばれて掲載されている。新井高子「おーしらさま考」という作品が方言で書かれている詩で気になった
  • ユリイカは「お笑いと批評」。最近のお笑いをあんまり見てないのでよくわからないまま読んだ
  • 人間横丁のインタビュー「おじいちゃん、おばあちゃんになっても漫才を」を、本人のネタをまだ見ていないけれど読んだ。ZOOMの背景が気になってコンビを組んだらしい
  • ネタが被ってないかすっごい検索するらしい。見え方をこういうふうに気にしてるんだと思った。お笑いをやってる側の人のことをここまでしっかり読んだことなかった
  • ゆッちゃんw 「お笑いは誰のもの?」も本人を知らないけれど、普段言葉だけで聞かせて理解させて笑わせている人なので、読みやすいしテンポ感が良かった。そんなに文章を読む人じゃなくても読みやすいテンポで書いてくれてるなと思った
  • お笑いを「笑わせると嬉しくなるやつね」と見る側は思わない、という話を書いていた。お笑いは見てくれる人のもの
  • 地下のお笑いとかは全然知らなくて、M-1とかに出てるあたりしかわからないけれど、M-1も予選に来るまでめっちゃ勝って、それでも面白くなくて落ちちゃうこともあるっていうのが大変な仕事だと思う。ネタの見せる順番によっても変わったりするし
  • 武田砂鉄 『「コンプライアンス!」と叫んでみるだけ』は、「コンプラがありますから」みたいな笑いの取り方について
  • imdkm「ステップとリズム――キャラを立ち上げ、ナンセンスを手懐ける」はいろいろなリズムネタについて。パンパンスパパンとかも出てきて懐かしい
  • 手条萌『推し文化とお笑いオタク――「ワーキャー」の何が悪いのか?』は、ワーキャーのファンはなぜ嫌われるのかとか。「金を出しているファンは偉いのか」に答えはYES以外にない、と


※この後Lさんは無事年内に全て読了された模様

x.com

群像・Sさん

  • 群像っていう雑誌はは毎月10編ぐらいエッセイが載っているのでそこを読みました!
  • 目次のページ数が間違ってるので珍しいなと
  • 米澤泉松岡正剛さんとの「交際」」。ファッション文化論・化粧文化論がご専門の方。『コスメの時代』という本を出したときに松岡さんが千夜千冊に取り上げて、それをきっかけに松岡さんを読み始めたらしい。すごいこと言ってて、「服を着ることと言葉を読んだり書いたりすることは非常に似通った行為なのだが、そのことに気づいている人は意外と少ない」。松岡正剛さんはそのことに気づいてた、という話だった。松岡さんは後年ヨウジヤマモトを着ていることが多くて、松岡さんの言葉が書かれたジャケットも発売されている
  • 正剛さんすごいおしゃれだっていう話も前回出てたけれど、服も言葉もずっと気にしていたんだということが書かれていた。コーディネートと編集の共通は確かにあるのかもしれないと思って読みました
  • 2ページ見開きでこれを書くのすごいなと改めて思った。どういうテーマを貰ってるんだろう
  • 鈴木俊貴 「名前のない坂」はのっけが飼ってる犬と意思疎通できてんじゃん、という話から始まるけれど、鈴木さんと飼い犬の関係は「シジュウカラヤマガラの関係」に似ているという話が出てくる。後ろのプロフィール見ると『動物たちは何をしゃべっているのか』を共著で書かれている方だった。
  • 人間は言葉に偏りすぎてるんじゃないか、という話。「翻訳機」というと動物の鳴き声を言葉に変えるイメージするけど、仕草や態度もコミュニケーション
  • 書評コーナーで気になるのが、加藤夢蔵さんによる『大転生時代』論。市川さんの書評と読み比べても面白いのかなーと
目次には全てが書かれている

文學界・ぼく

  • 今までスルーしてきた『読むためのトゥルーイズム』を拾い読みしました。「本の読み方」をトレーニングする読書会の連載。
  • 戸田山和久『思考の教室』が課題本になってて、まずそちらを読む必要があったのでめちゃくちゃ時間がかかった……。高校〜大学生向けの本なのだけれど、語り口が独特で
  • 社会学の理論などアカデミックなものを下敷きにして作られているので随所随所が難しい。難しい言葉は使ってないけれど
  • 著者がどのような方法を用いてこの本を書いたのか、という構造を分析しつつ読んでいく感じ。まずは2回ぐらいかけて目次と「章のまとめ」的な部分を読み解いてスプレッドシートやグラフを作り〜という課題が毎回出されている
  • 文學界は今回も創作がメイン回でした
  • 辻原登『鋸山奇譚』は実際に会った事件をモチーフにしているらしい。関係者の証言だけで物語の真相が明らかにされていく構成
  • 沼田真佑『白き使者』は世にも奇妙な物語的作品。猫を飼って別人のようになっていた姉が元に戻ってしまう?話
  • 王谷晶『かう人』は、大食いフェチの主人公がお隣のいぬかいさんが飼っているペット(普通に大男にしか見えない)にたらふく食わせて満たされるという危うい物語
  • 旗原理沙子『犯罪者と私』は今号で一番刺さる作品だった。夫からはDVを受け、バイト先ではモラハラ性的虐待を受けるけれど、なかなか自分を被害者と意識できない女性の話。最終的には少し進むことができるのだけれど、依存の形がすごくリアルだった
  • 岩城けい『フェアリーブレッド』では、離婚経験のあるラスと未婚だったリンデルが出会い、結婚する。それぞれいい歳での結婚なので、細かい取り決めは契約書を交わしたりと大人な関係性を築こうとするのだが……。小さな軋轢が最終的に悲劇に繋がってしまう、悲しい話だった
  • 2024年下半期同人雑誌優秀作で、あまざき葉『掌編小説集 ゆれあうからだ』が掲載されていた。違和感とか不満とかが身体の変形として現れていくみたいな話だった
  • 特集は「特集 共鳴する小説と映画」ということで、対談二つと映画論一つが載っている
  • 平野啓一郎×石井裕也『原作と映画の共同的ライバル関係』は平野さんの『本心』を映画化した石井さんとの対談。CGの是非みたいな話だった
  • 金原ひとみ×山中瑶子『「わからない」と対峙しつづける』は、『ナミビアの砂漠』について。金原さんが原作ではないけれど、めっちゃ影響受けてたっていう話
  • 安藤礼二『燃え上がる図書館──アーカイヴ論』、久々なので連載をすっかり忘れていた。めっちゃ難しいので全然わからん……
  • 平野啓一郎『今という時代に受賞すべき作家の受賞』と櫻木みわ『しお ゆき こおり、いつかの国語』はどちらもノーベル賞を受賞したハン・ガンさんについての話だった。今受賞すべき作家だったんだなあと
  • 頭木弘樹『痛いところから見えるもの』は、熱心に痛みについて語ってもその熱度ゆえに伝わらない、みたいな。コミュニケーションの難しさについてだった
  • 東畑開人『贅沢な悩み』は臨床事例が載っていて、回復→安定→再び下落という状況にすごく覚えがある……
  • 連載。井戸川射子『舞う砂も道の実り』は新キャラ登場!? 冒頭から最年少のワオスリがどなたかと懇ろになっているシーンでびっくりした
  • 又吉直樹『生きとるわ』は借金に加えて口止め料まで要求されてしまった主人公がついにクライエントの金に手を出して……わぁ〜〜
  • 1月号がなぜか手元にあるんですが、ついに國分功一郎×若林正恭の対談が。みんな疲れてきたよね〜とか、自己啓発本も「勝つ」とかいう文言減ってきたよね〜という話
  • 谷川俊太郎の追悼エッセイでは最果タヒさんとか俵万智さんが書いている。俵さんは初めて会ったとき「あなたは現代詩の敵です」って言われたとか。谷川さんおもろいな〜
今月の文チャレ集合写真。いつか今までの全部集めてみたい…

最終回を終えて

以上を持ちまして、文芸誌を一年間読んでみるチャレンジは終了となりました!
ほんとに一年やってたんだ、と実感はあまりないのですが、今年を思い返してもずっと文芸誌に追われていた記憶しかないので、やっぱり一年間やっていたということなのでしょう。

ただ一つ、はっきり言えるのは、参加者の皆さんがいなければぜーーったいに読みきれなかったということ。なぜなら寄り道して買った『ユリイカ臨時特集号』も『望星』も『現代思想』も『MONKEY』も、そして『文學界一月号』も全部読めてないから。せめてチャレンジ中の文學界だけは来月までに読まねば何も喋れなくなってしまう!という焦りから続けられた企画でした。貴重な一年間を文チャレに捧げてくださった皆さん、本当にありがとうございました。

……そしてもう少しだけお付き合い頂けましたら。

文チャレのZINE、出します!

せっかくやったのだから、何かしらの成果物に繋げたい〜と思っているのは自分だけかもしれませんが、先達の偉業に感化されてしまったためやります。来年五月の文学フリマ東京にて、「文芸誌を一年間読んでみるチャレンジ」(仮)出します!
内容は文チャレを終えたエッセイとか、それぞれの読んだ文芸誌に関係した何らかの創作になる予定。
来年はぜひ東京ビッグサイトにて、文チャレメンバーの努力の結晶をその目でご覧ください!


ー完ー