今年1月から始まった「文芸誌を一年間読んでみるチャレンジ」もいよいよ佳境に入りました。
今回は久々に参加メンバーが一同に介しての報告会。さすがに11ヶ月も読んでいると自分なりの楽しみ方を見つけた面々が、今回もわいわいガヤガヤお送りします!
10月の報告会はこちら
群像・Sさん
- ごめんなさい……一行も読んでないです!
- 嘘です、井戸川射子『私的応答』だけ読みました
- 井戸川さん、先月で連載が終わったと思ったら今月から新連載が始まるという
- いつものように改行は少なくずーっと続いていく感じ
- 前までの作品(『明日、晴れますように 第七夜物語』)は移人称で書かれていたけれど、今作は「私」視点で書かれている。ただ時間とか場所ははっきりと書かれておらず、連想みたいな感じで繋がっていく感じ
- 野間文芸新人賞の候補作が発表されていた。『DTOPIA』『猿の戴冠式』『女の子たち風船爆弾をつくる』『メメント・ラブドール』『月ぬ走いや、馬ぬ走い』の五作
- 12月号は大好きな乗代雄介が載っているので楽しみ。くどうれいんも創作で載ってる
- 濱口竜介×蓮實重彥の対談もある。この前久しぶりに蓮見さんの文学賞受賞会見動画を見てやっぱりいいな〜と思った。圧が強すぎて誰も質問できない(笑) 記者もみんなタジタジになってて……見てるだけで冷や汗出てくるから、みんなチェックしてくれ!
- 連載の最終回が色々あって、一月から始まった釈徹宗×若松英輔の対談も12月で終わり。ちょうど一年でぐるっと回って終わる
- 新連載、ここにきて大谷能生。『音と言葉のデジタリティ』って書いてあるので楽しみ。(文チャレは)次回で終わるけど
- できるって気持ちはあるけど意外とできないということが分かりました
ユリイカ、現代詩手帖、飛ぶ教室・Jさん
- ユリイカは「松岡正剛」特集。届いた時に1/3ぐらい勢いで読んだ
- まず編集工学が何なのかについて理解してなかったけれど、みんなが正剛大好きってことは分かったよ、という気持ちになった
- いきなり正剛からの手紙が載ってたりとか
- 正剛に当てた詩もあった。「神の編集というものがある」から始まる詩を正剛に送った人がいるんだ、みんな正剛大好きなんだなと
- 一瞬「おっ?」と思うところがあったりするけれど全容が分からないので、すごいなということはわかるんだけれどどう表現していいのかわからない
- 俗っぽさと神っぽさを兼ね備えてる不思議な人だと思った
- ユリイカは「今後も読めないだろうな」という号と、「読めなかったけど気になる存在だな」という号があるけれど、今回は後者だった
- 現代詩手帖は「新鋭詩集2024」で、今までで一番読んだかも、ぐらい読めた。半分ぐらいはひたすら作品が載っているので
- 作品のあとに各詩人へのアンケートがあって、略歴と繰り返し読んでいる詩集と詩を書くときに考えていることを聞いている。こういうの好き
- 「詩を書くときに考えていること」には「どうしようどうしようどうしようどうしよう」だけの人とか「分かりません」の人もいて、やっぱみんな詩人だなと思った
- アンケートが好きでも詩を読んだらそんなに好きじゃない、というのもあって面白い
- 中嶋中春『Good Enough』にはチャットモンチーの「シャングリラ」をめぐるリアルな会話が書かれていて好きだなあと思った
- 最近自分自身も散文の日記っぽい詩を書き溜めているので、そういう詩を書いている人が気になる
- のもとしゅうへい『魔法』の書き出しが「知り合いの女の子によく似た牛」っていうの、分からんけどなんとなくおるような。牛に似た女の子だったら悪口だけど、女の子に似た牛だったらギリ悪口にならない気がする
- 後半は台湾同志詩アンソロジー。同志詩っていうのは少数派の性のあり方を表す詩らしい
- 作品のあとは難しめのことが書いてある。当事者を当事者としてしまうことについてどうなのか、とか
- 飛ぶ教室の冬号は『子どもの、ミステリー。』
- 有沢佳映/あわい 絵「探偵は優柔不断」は、クラスで探偵扱いされている子が「メイサちゃんがいまむらくんにあげたマスコットがなくなったので探して欲しい」という依頼を解決する話。読みやすかったし、現実にありそうだった。謎解きっていうほどのことでもなくて、犯人の挙動で分かる、みたいな。それで何度も探偵として成功してるのすごいなと思う。ほとんど会話で展開してるけど、こういう会話あったよな〜と懐かしくなった
- 本村亜美 回文/石井聖岳 絵の「叫び、海老、今朝」は全部回文で書かれていて面白かった。回文で怪文。えびの宝箱から無くなった宝物を「三大、探偵団さ(さんだいてんたんていだんさ)」が探すというお話
S-Fマガジン・Lさん
- 「連載は連続で読んだ方がわかりやすい」という気づきを得た
- S-Fマガジンは隔月販売で、なおかつ長期豪華連載人なので話が込み入っている。10月号と12月号の連載を続けて読んだら、思ったより理解度が上がった(でもそうすると次との間が空いてしまう問題)
- 沖方丁『マルドゥック・アノニマス』とある人物が亡くなったことから話がどんどん複雑化していってミステリー感が出てきた。戦闘シーンがあると話が進む感じ
- 神林長平『戦闘妖精・雪風』は、やっと戦闘機を動かして敵と戦うというところに。読んでいて楽しかった。第五部なんで、既刊を読み返した方が理解が進むと思う。ちょっと前までAmazonPrimeで見放題だった映画を観とけばよかった
- 戦闘機の人工知能とパイロットとの関係が深く描かれていて、コミュニケーションの取り方がよくわかる回だった。人工知能は喋れるわけじゃないけど、機械のメーターだったり挙動を通してパイロットが理解を深めていく……みたいな
- 飛浩隆『空の園丁』はもうラストのクライマックスの方だと思うけれど、今までの話と時空が変わるので大変。この作品は登場人物表がないので……
- 吉上亮『ヴェルト』は一番追いつきやすい。ルイ16世の処刑人が今回の主人公で、マルキ・ド・サドと出会ってなんだかんだする話だった。サド侯爵が結構強烈に描かれていた
- 田丸雑管『未来図ショートショート』は短いので大好き。『コオロギ狩り』はコオロギを食べる人の話。昆虫食が流行っている時代で、母娘がコオロギ狩りに行ってハマっちゃったという話。「月見コオロギ」というのが気になる
- 『ロイとの景色』バスケットボール特化のアンドロイドと練習する話。ショートショートらしく、セリフが最後に回収されるというのが上手。アンドロイドなので主人公が成長していくに連れてだんだん劣化してしまって、練習相手になれなくなるんだけれど、最後は主人公がMBAに行き……と綺麗な終わり方。
- 『VR祭りの夜』VR空間にできたお祭り会場にボランティアとして参加している子らの話。過疎化してた地域の祭りをVRに移植したらすっごい盛り上がってるという設定。非モテのやっかみみたいなのが描かれてたり、細かな設定が面白い
- VR小説、流行りなのかもしれない
- あと気になったのは、田中芳樹インタビュー。作中で重要なキャラを殺しがちなので、インタビュアーの「英雄というのは悲劇と結びついてるのでしょうか?」という問いに「その人物自身が自分の敗北を悟ったり、死に赴こうとしている態度とかがやっぱり人 とくに読者を惹きつけるような気がしています」という心持ちで何人か倒していると。ああつらい……
- でも途中で殺そうと思っていたけれど、しぶとく生き残ったキャラもいるらしい
- 長山場生 『SFのある文字誌』は夢野久作の前半生について。初期は文明批評とかもしていたらしい。「ドグラ・マグラ」が強烈すぎて、探偵ものも書いてたというのが意外
ユリイカ増刊号、文學界・moi
- ここにきてようやく『ユリイカ臨時増刊号 〈総特集〉92年目の谷川俊太郎』を読み始めた。詩論からエッセイまで幅広く載っているけれど、本当にまるまる一冊谷川俊太郎。詩だけではなく、合唱曲や校歌、ドラマ、ラジオ、哲学などなど、谷川さんの関わったあらゆる仕事に関する評論がそれぞれに対して一つ以上掲載されててすごい
- 全体を通して「谷川俊太郎の詩には歴史性がなく、匿名的である」というような点を多くの人が指摘していた。確かに、そうかも
- 山田亮太『ゲゲゲの俊太郎 あるいは闇の谷川俊太郎の錬成』など謎に実験的な作品も載っていた
- 詩論の中で昭和45年に出た詩画集『旅』から「鳥羽1」という詩がめちゃくちゃ引用されていて、谷川研究において重要な作品なんだな〜と思った
- 「文學界11月号」は創作がメイン。大きな特集はないけれど地味に良作の多いスルメ号。
- 町田康『津井田殺し』は滑舌悪いことをバカにするノリ批判的な話。以前掲載された『男花嫁』と微妙に繋がるエピソードも挿入されている。中盤から謎に狂い始めてそのままラストまで突っ走るスタイルだった
- 津村記久子『ログアウトボーナス』はソシャゲ依存の女性が断ちを始めてからの生活が描かれた一作。戦略系のゲームにハマってしまい、仕事中に注意散漫になったりと支障が出始める。どれだけ頑張っても上位のプレイヤーには追いつけない。体調を崩したことをきっかけについにログアウトして、そこからスリップとの戦いが始まる……。仕事上でのトラブルで再度ログインしてしまったり。
- 「50日ログアウトを続けられたら一輪挿しを一つ買う」とか、「ゲームでキャラを強化するガチャに6万つ買う代わりに、ガチャガチャを6千円分やってみる」ってところがいいなあと思った。
- 遠野遥『関係』は官僚から見た作家という構造が面白い話。不穏さを残しつつ終わっていく感じが遠野さんっぽい
- 篠原勝之『いきあたり奈良』は82歳と思えないパリッとした文章がよかった。ハードボイルド調なんだけれどご本人の優しさが滲み出ていて良い。人々との関わりみたいなところが読んでてほっこりする
- 坂上秋成『泥の香り』が個人的に今月のベストかも。39歳男性の中年クライシスと見せかけて、色々と「子どものまま」だったことを反省させられる話。主人公が自己評価低いくせにナルシストなところもあって、その振る舞いがいちいち刺さる。こんな大人になっちゃったらどうしよう……
- 一応最後には自覚を得て反省するという終わり方でよかった(けっこう荒療治だが)
- 長嶋有×千葉雅也の対談『保存されない時代を描く』は私小説のシーケンシャル性についての話だが、ほとんどMSXとか黎明期のインターネットの話であまりついていけず。
- 小野絵里華『今日も、泳いでいます』は詩人だけど運動神経は良いよという話。確かにそういう偏見持ちがち!
- 横山剣×岸政彦『男の美学とチャーミングな情けなさ』は岸先生がめっちゃクレイジーケンバンドのファンだって分かる回。サクッと読めそうに見えて、出てくる曲を聞いていたら意外と時間がかかった
- 東畑開人『贅沢な悩み』は「国境の長いトンネルと抜けると第2部であった」。休載を勝ち取ったテンションで、冒頭6ページぐらいずっと締め切りの話してる……。言葉を言い換えながら論を展開していく東畑先生お得意の構成。
- 松尾スズキ『家々、家々家々』は、漫画家を諦めて芝居の道に行くまでのことが書かれていた。「いがらしみきおは二人はいらない」って言われたり、ガロの変種者から「ストーリーがよくわかんない」と言われたり。でも「わかんないけどおもしろい」ものってあるよね!というのが今につながっているらしい
- 四方田犬彦『零落の賦』、今回は力作の30ページ越え。溝口健二回だった。圧倒的だったので、そのまま「残菊物語」を観ちゃった。
- 溝口作品は「男は女を踏み台にして華々しい栄華と名声を手にする」んだけれど、最終的にそのことを自覚した男が女の元へ向かうももう遅い……というのが基本形らしい
- 井戸川射子『舞う砂も道の実り』。2回目にしてようやく井戸川さんの書き口に慣れてきたかな〜という感じ。旅をする話なんだけれど「旅!」って感じの部分はほとんど描かれず、役所の手続きとか家族の微妙な空気感とか、日常的なところばかりが書かれているのがおもしろい
- 又吉直樹『生きとるわ』は横井以外の人物のいい面が見えてくる一方で横井だけがひたすらどうしょうもない。もうこれで「実はいい奴でした!」ってなったらびっくりするわ
- 新人小説月評は宮内悠介さんが文學界と群像に載せた二作品で取り上げられていた。仕事しすぎか。評者二人で評価した作品が割れてるのが面白いなあ。永方佑樹『字滑り』はどちらも高く評価していた。読み直さなきゃ。
さーて、次回の文チャレは……最終回!!?
はい、ということで「文芸誌を一年間読んでみるチャレンジ」は次回で最終回となります。ここまでついてきてくださった方、本当にありがとうございます。
次回は12月22日(日)、場所はいつものニネンノハコなのですが、当日はちっちゃめの文学イベント「大門文芸市」が開催されます。文チャレ参加者はもちろん、その他のメンバーたちも自主制作のZINEやグッズなどを販売予定です。当日イベント後のアフタートーク的な感じで文チャレ報告会になります。
とき:12月22日(日) 18時〜(文芸市終わり次第)
場所:ニネンノハコ(三重県津市大門9-7)
X(@2YearBox)にてスペース配信予定。
ぜひぜひお越しください!