今日の温泉は格別にチルな感じだった。ちょうど人が一人しかいない時間帯で、カポーンという音も全くしない静謐さだった。
今までの一番は残雪のこる福井に、友人が住む集落の温泉を訪ねたときだったけれど、その次ぐらいにはチルだった。
人が多い場所では、ゆっくり休むのが難しい。地元の人しか来ないローカル温泉なので人がいるといっても知れているが、それでもやっぱり隣のおじさんの圧を感じてしまうこともある。子どもの声が浴室に反響して、妙に耳が痛いときもある。そんなとき、必死に癒されようとしても限界がある。
温泉へ行くのは、月に2回か3回。
住んでいる我が家に備え付けられた浴室はホラゲもかくやというレベルの汚さで、普段は感覚をマヒさせて入っているけれど、どうしてもそれができない疲れた日に温泉へ行く。
今日はとても久々に「温泉に入った」という感じがした。
湯船に出たり入ったりして、最後に源泉浴をしているとき、自分の体が強く意識された。
程よく力の抜けた全身に意識を配り、幼い頃の身体感覚を思い出そうとする。
あの頃、自分の体はのびのびしていただろうか。それとも、窮屈だっただろうか?
運動は今と変わらず苦手だったけれど、坂を駆け上ったり、細い棒の上でバランスを取ったり、高いところに登ったりしていたあの頃の体。
成長するにつれて身につけてしまった余計なものを脱ぎ捨てて、あの頃の体に戻っていくような……。
しばらくそんな想像をしてみて思った。歳を取ることで、あの頃の不自由さと純粋さが戻ってくることもあるのだろうか。
そして、最後の0がマイナス1になったとき、人は死ぬのだろうか。
最終受付時間を少し過ぎた頃、子ども連れのお父さんと数人のおじさんが入ってきて、静かな時間は終わった。
脱衣所でいつも以上にしっかりと髪を乾かして外に出ると、むんとした熱気に包まれて爽やかな感じが吹き飛んでしまった。
帰りにコンビニでマンゴー酎ハイを買った。