別に書くほどじゃないけど…

ツイート以上、フリペ未満の雑文帖

牛腸茂雄とか、書店ぶらり

迷っていた。お金はないし、今日までの展覧会とかも色々ある。それでも、今週以降はどの休日にも何らかのイベントが入っている(!)
じゃあ行くしかないやろ。


行きました。まずは文フリ以来の大阪へ。そこから宝塚行きの電車に揺られ、30分ぐらいで伊丹に到着。


伊丹を一言で表すならば、「和モダン」。古っぽい雰囲気の新しい建物がたくさん。ニトリまでなんか和風になっている。これはちょっと違和感がある。なんでも瓦屋根にしとけばいいってもんじゃないだろう。


もちろん歴史のありそうな建物もあるのだが、全体的にみんな小綺麗になっている。開発の際に一気にリノベーションでもしたのだろうか。


そして本日の目的、牛腸茂雄写真展に到着。

牛腸茂雄写真展

今回は撮影できない展示だったので、とにかく網膜に焼き付けようとたくさんメモを取ってきたのでぶちまけたいと思う。
まず牛腸茂雄という写真家について。1946年新潟生まれ。幼い頃に胸髄カリエスを患い、背骨が曲がってしまった。ハンディを抱えているためにより独り立ちへの思いは強かったらしく、デザイナーになろうと上京。そこで写真の才能を見出され、写真家の道を歩み始める。
その作風は「コンポラ写真」の代表と言われており、日常をモチーフとした何気ない光景、ポートレート作品が大部分を占める。「コンポラ写真」の定義はよくわからないが、明確なテーマ性を持ったドキュメントやガチガチに構図を固めた作り込みとはまた違う、のちの私写真につながるような潮流といった感じだろうか。

さて、牛腸の作品の大きな特徴として解説されているのが「背中が曲がっているが故に低いアングルからの独特な視点を持っている」というようなことだ。確かに上から見下ろすような写真はあまりない。だが「見上げる」ような写真もあまりなかったように思われる。(後期のカラーには数点見られたが)
というか何よりも特徴的だと思うのは、被写体との距離感だ。顔だけを切り取ったクローズアップもあるにはあるのだが、全体的に被写体がめっちゃ小さい。画面の1/3ぐらいで収まっているものが多く、近寄ってみないと表情はよく見えない。にもかかわらず、画面の中では十分な存在感を放っている。
例えば展示番号94『少年(アトリエ・ブロック多摩川園事務所の近く)』などは、全体が草木でかなりごちゃごちゃしているにもかかわらず、少年二人がちゃんと画面の中で際立っている。おそらく被写体が日の丸の中心に配置されていること、右側からの日光に対して少し斜めに背を向け、身体のラインにハイライトを入れて背景から分離させていること、そして絶妙に焼き込んでいることなどがその要因ではないだろうか。
こうしてじっくり見てみるだけでも決して「テクニカルじゃない」なんてことはないのがわかると思う。

他の作品も構図に関してはものすごく慎重に考えられており、66番(双子の少年)のタイヤ前でのポートレートはまずフォードの大型タイヤに視線が誘導され、そこから双子が飛び出ているような視覚効果が発生しているし、85番(片口安史夫妻)はあえてL字に並んだソファーの中央角に夫婦を座らせて消失点に視線誘導しているし、デザインを学んだだけあってかなりグラフィカルなポートレートが多い。
またポートレートの大半は被写体が画面半分以下に収まっており、抜け感のある上半分と相まって全体的な静謐さをもたらしているように思われる。


この写真なんかもやっぱり下半分に収まっている。普通に「見上げる」という感じではないんだよな。

第一会場・第二会場にはそのようなモノクロポートレートが並んでいたが、第三会場では打って変わってポジカラーによる街頭スナップが展開されてゆく。最初は急に作風が変わったことにびっくりするが、じっくり眺めていくとやはりモノクロからの繋がりも感じられた。例えば昼下がり、街の一部分だけスポットライトのように照らされたゾーンに入った人たちを狙って撮影したり、望遠の圧縮効果で遠景との対比を生み出したり。カメラにCanonAE-1と80-200とかを使っていたのは驚いたが。もっと小型で撮ってると思った。当時の機材としては小型の部類に入るのかもしれないが。
そして会場には、牛腸が影響を受けたという心理学関係の本(みすず書房!)や『モモ』(なぜか『はてしない物語』の帯がついていた)なども展示されていた。これだったらいくらぐらいかなあ……とか考えてしまう職業病。しかし往年の写真家達の学術的探究心は見習いたいところだ。その広範囲の知識があるから十分な説得力を持った作品群を生み出せるのだろうなあ。

さて、長々と書いてきた牛腸茂雄の作品であるが、最近赤々舎から「全集」が出ており、ここで挙げた作品も見ることができる。となるとわざわざ伊丹まで見にいく必要は……? などと思ってしまうかもしれないが、今回の展示では牛腸茂雄が参加している短編映画も上映されている! これは現地に行かねば観られないので、ぜひあの『Game Over』の衝撃のクライマックスを体感してほしい。それ以外にも、写真作品中に映画に登場した少女のポートレートなどもあるので、映像を見ているとより楽しめることは間違いない。

そこに書店があるならば

ミュージアムを後にして、食事処を探しつつ駅近くをぶらぶらした。古本屋があったので、もちろん寄ります。


コンパクトな空間ながら、岩波や講談社文芸なんかがずらっと揃っているなかなか面白いお店。中には灯光舎さんなど「おっ」と思わせる本も。復刻版の『一握の砂』を買いました。

遅い昼食を食べる場所を探していた。JR駅前にはあまりランチできそうな場所がなく、近くの大型イオンか阪急の方まで行かなければならない。すき家とかでいいかなーと思い(遠出で面倒になって牛丼選びがち)阪急の方へ向かっていると、マップに「おばんざいどころ」が。レビューもなかなか。これは行くっきゃない。早速向かったのだが、お店らしき場所が全然見つからない! よくよくレビューを読むと「スナックで臨時営業中」とのこと。これはなかなかのトラップ;;


本当にこのビルであってるのか、めっちゃ不安。


合ってた。よかった。主菜は肉・魚・唐揚げから選べるということで、唐揚げを選択。もう見たらわかる。これはうまい唐揚げ……。


ご飯にはかつぶしが山盛り。自家製だし醤油でいただく。これぞインフォリッチフードですよ、国分先生!
牛丼も美味しいけど、せっかくならばこういう地元のうまくて安いものを食べたいよね。


腹ごしらえもして、書店巡りを再開。今度は大阪に戻って、文フリ以来のtoo booksさんへ。


今推してるっぽい本は『水歌通信』『翻訳文学紀行V』『ガザに地下鉄が走る日』などなど。勉強になります。
ここのお店の面白さはユニークな文脈古本棚。今回はPHOTO POCHEシリーズのウォーカー・エヴァンズを見つけてしまい、ウォーーと買いました。


さらにその足でアートブック専門古書店・colombo cornershop さんへ。その名の通り角にあるカフェ併設本屋さん。
絵画とか建築系が多いかなーという感じだったが、リーフリードランダーとかいい写真集もたくさん。志賀理恵子を買ったところ「今日入ってきて品出ししたばかり」とのこと。実質これを売った方から買ったようなものじゃん。面陳されていたモード写真の図録(サラ・ムーンが入ってた!)とめっちゃ迷ったけれど、多分こちらの方がグッとくるなと思ったので。マティスのJAZZとかもあって、すごくよかった(語彙力)


御堂筋の銀杏も終わりがけ。夜はライトアップされて綺麗だろうけれど、日中は少し寂しくなるね。


そんでもちろん、大阪に来たら心斎橋のBOOK OFFに立ち寄る義務がありますので。
フランクルの『それでも人生にイエスと言う』などをGET)


なぜかいつも帰りは腕に食い込む袋を持ちながら帰ることになるわけです。お金がない? 本代は別腹です!(月末に苦しむ姿から目を逸らし逸らし)

でも結果的にとても良い休日を過ごせました。牛腸茂雄展も行くまでは十分魅力を分かってなかったけれど、もうすっかり好きになっちゃった❤️
最後に、展示会場に貼られていた牛腸先生のこんな名言をご紹介して終わりたいと思います。

ものをみるという行為は、たいへん醒めた行為のように思われます。しかし醒めるという状態には、とても熱い熱い過程があると思うのです。
『カメラ毎日』1968年6月号より

もちろんここだけではその本意はわからないけれど、撮っているときの構図とか光とかを考える冷静な自分と、撮りたい・収めたいという欲求にカメラを構えてしまう自分の共同作業なのかもしれなませんね、写真って。